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特集1 新春対談 夢を実現させるには 宇宙飛行士 山崎 直子×大分県知事 広瀬 勝貞
インタビュー 誰もが自由に表現を楽しむ場「おおいた障がい者芸術文化支援センター」オープン
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広瀬知事 明けましておめでとうございます。今日は宇宙飛行士の山崎直子さんにお話を伺います。
山崎さん 明けましておめでとうございます。よろしくお願いいたします。
広瀬知事 山崎さんは2010年、ケネディ宇宙センターからスペースシャトルに搭乗し、国際宇宙ステーションに行かれましたよね。宇宙ではどのようなお仕事をされたのですか。
山崎さん 国際宇宙ステーションの組立補給ミッションに従事しました。スペースシャトルの貨物室にレオナルドと呼ばれる補給モジュールを乗せて行き、スペースシャトルが国際宇宙ステーションにドッキングした後、国際宇宙ステーションに乗り込んで、ロボットアームを使って部品の補給・補充をしました。
広瀬知事 そもそも山崎さんが宇宙を目指すようになったのはいつ頃ですか。何かきっかけがあったのですか。
山崎さん 小学生の時から星を見たりSF映画を観たりすることが好きで、いつか行けたらいいなとは思っていました。
ただ意識したのは、中学3年生の時、スペースシャトルチャレンジャー号の打ち上げをテレビで見たのがきっかけでした。あいにく73秒後に爆発してしまったのですが、乗組員にシャロン・クリスタ・マコーリフさんという学校の先生がいらっしゃって、「宇宙から授業をしたかった」というお話をされていたと聞きました。当時、私も学校の先生に憧れていたので、その言葉がすごく心に焼き付き自分も宇宙に行きたいと思うようになりました。
広瀬知事 そうですか。そのクリスタさんへの思いを持ち続けて東京大学大学院で宇宙工学を学ばれ、また、アメリカのメリーランド州立大学にも留学されたのですね。この留学でもいろいろと得たものが大きかったでしょうね。
山崎さん 留学の際は、湾岸戦争の後でもあり両親に猛反対されたのですが、先輩の話を聞いたり、奨学金に応募したり、大学への入学許可をいただいたりと、いろいろと自分で調べました。その上でもう一度両親に相談したところ、そこまで自分で頑張ったのだから、もう行ってきなさいと言われました。
広瀬知事 人は大きな夢や目標を持つことで努力もするし、チャレンジもするということですね。本当に夢や希望を持つことは大事ですね。
山崎さん そうですね。こんなことをしてみたいとか、ここに行ってみたいという、そういった気持ちが大きなエネルギーになります。
広瀬知事 留学後はJAXAに入社し、試験を受けられて、宇宙飛行士になられたわけですが、訓練は大変でしたか。
山崎さん 訓練は座学も多いのですが、確かに体力を使う船外活動の練習や、サバイバル訓練、飛行機を操縦するというようなものもあります。日本は有人宇宙船を持っていないのでアメリカやロシアなど他の国で訓練することが多いです。いろいろな国に行って、いろいろな国の方と一緒に働けるというのは、大変なこともあるのですが、とても楽しかったです。
広瀬知事 山崎さんはいろいろな困難を前向きに楽しくするという大変な才能がありますね。
山崎さん どうせやるなら、楽しみながら! と思っています。
広瀬知事 山崎さんはスペースポートジャパン代表理事を務められていますね。エアポート(空港)ではなく、「スペースポート(宇宙の港)」ということですが、どのようなことをされているのですか。
山崎さん スペースポートジャパンは、宇宙港を日本に幾つか開港することで日本の航空宇宙産業を盛り上げていこうという組織です。飛行機のように滑走路から飛び立って、また滑走路に戻ってくるというような「宇宙船の港」の開発に取り組んでいます。
宇宙港の使い方は主に三つあります。一つ目が宇宙港から飛び立ってまた戻ってくるという「宇宙旅行のため」に使うというものです。二つ目が宇宙港から飛び立って、宇宙に近い空間を通りながら他の国に降り立つという「2地点間輸送という輸送手段」として使うもの。三つ目がスペースポートからロケットを積んだ飛行機を打ち上げ、そこからロケットを切り離して、「宇宙へ人工衛星を打ち上げる」というものです。
広瀬知事 宇宙港を使っての宇宙旅行は楽しみですね。
それから、2地点間輸送というもの、これもすごいですね。もし実際に東京からニューヨークまで行くとしたら、移動時間はどれくらいですか。
山崎さん 一番早くて約30分ほどだと思います。日帰りで行き来できるようになりますね。
広瀬知事 それともう一つ、飛行機にロケットを積み大空で発射して人工衛星を宇宙に送り届けるというものですね。この人工衛星のニーズはどのくらいあるのですか。
山崎さん 現在、すでに数千基の人工衛星が地球の周りで活用されていますが、今後は数万基になるだろうといわれています。特に、小型の人工衛星を打ち上げるという需要はどんどん増えてきます。飛行機から発射するのも、数百kg単位の小さな人工衛星です。
広瀬知事 これから打ち上げられる人工衛星には、どのような役割が考えられますか。
山崎さん 今は、いろいろなモノがインターネットにつながるという、IoTの時代です。あらゆるデータを収集することで、私たちの生活や事業活動に活用されています。このデータをさらに高度化するためには人工衛星からモニターしたデータを収集することが期待されます。
広瀬知事 あらゆるモノを人工衛星からモニターすることで、例えば、米や麦の作況状況から食料需給の推計を行ったり、自動車の走行状況から渋滞を予測することもできるようになりますね。
そうすると、小型の人工衛星の需要が増えることが考えられますね。
山崎さん また、人工衛星を介してインターネットを世界中につなげるという通信衛星としての役割も注目されています。インターネットは世界の人口のまだ40%ぐらいの人しか使えていないので人工衛星でインターネット網が構築出来れば世界中の人が使えるようになります。
広瀬知事 そうすると、山崎さんが活動している宇宙港の需要も増えてくるでしょうね。
山崎さん 宇宙港は、アメリカでは、もうすでに12港も設置され、国から許可を受けて整備されています。
ヨーロッパではイギリスやイタリアでまさに今、整備中です。また、アジアではシンガポール、マレーシアなどが関心を示しています。
そのような中、アジア初の宇宙港を日本に整備したい、そして、その宇宙港をいくつか整備して、アジアのハブにしたいと思っているところです。
日本には、人工衛星を作る技術や航空宇宙産業が集積していますので、日本の今の産業基盤は強みになると思います。
広瀬知事 これからの宇宙開発、宇宙産業は随分揚々たる未来があるように思うのですが、経済規模も随分広がっていくのでしょうね。
山崎さん 現在、世界全体で宇宙産業の規模は40兆円ぐらいといわれています。それが今後20年ぐらいかけて倍以上の100兆円になるだろうと予測されています。
広瀬知事 実は大分県でも2年前、中小企業4社の皆さんが集まり、地球環境観測衛星「てんこう」を制作し、JAXAのロケットに乗せ、種子島宇宙センターから打ち上げてもらいました。本県の中小企業が宇宙というこれからのフロンティアに踏み出すことができたのは大きな成果でした。
山崎さん 「てんこう」の打ち上げ成功は、本当にうれしいニュースでした。
宇宙、人工衛星などでは実績が大切にされます。人工衛星で部品がきちんと動いたという実績があると、また次につながりやすくなりますので、大分県の今回参加してくださった企業の皆さん、ぜひ、また次のミッションでも、活躍していただきたいと思います。
広瀬知事 来年は「宇宙技術および科学の国際シンポジウム」が、大分で開催されることになっています。そこに向けて盛り上げていこうと思っているところに今日は大変面白いお話を聞くことができました。
山崎さん シンポジウムでは、地域の人と作り上げるイベントや充実した展示もありますので、ぜひ大分県の皆さんに会場まで来ていただいて、宇宙のことを身近に感じていただきたいと思っています。実は私、学生の頃、そのシンポジウムで発表をしたのですが、それが国際学会で発表する初めての経験でとても印象に残っています。
広瀬知事 宇宙は我々大分県にとっては、遠いことではないですね。地域の人も参加して、いろいろお話を伺ったり交流をしたりする機会ととらえて良いですね。
また、人材育成ということでいいますと、本県も去年の夏から高校生30人の希望者を募り、アメリカのスタンフォード大学の教育チームと遠隔授業を行っています。この授業では、新しい科学技術の挑戦や様々なグローバルな課題に対し、創造的に考えることを学んでいるところです。
山崎さん とても良い刺激になるでしょうし、その経験をもとに、さらに頑張ろうという気持ちになるでしょうね。
広瀬知事 今、「先端技術への挑戦」ということで、いろいろ施策を進めていますが、今日の宇宙のお話も、先端技術への挑戦を引っ張っていただける大変良いものでした。ありがとうございました。
山崎さん ありがとうございました。
山崎さん 地上では重力の影響でシャボン玉の下にしずくができ、そこに色素がたまるのでシャボン玉に色はつきませんが、国際宇宙ステーションで、トロピカルジュースとボディシャンプーを使って実験したところ、赤いシャボン玉を作ることができました。
山崎さん 宇宙船の中は無重力なので、上に飛ぼうとする翼の揚力だけになって、上へ上へと向かおうとします。