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「失敗のすすめ」
大分県知事 広瀬勝貞
「失敗は成功の母」とは発明王トーマス・エジソンの言葉だと教えられましたが、実はだれかの名翻訳で、本人は「Failure teaches success」と言ったのだそうです。科学者らしい味も素っ気もない言葉ですね。
昨年1月でしたが、久し振りにこの言葉が身に沁みました。大分県は2020年4月米ヴァージン・オービット社とアジアにおける宇宙港の活用についてパートナーシップ協定を結びました。大分空港を同社が開発している人工衛星打上げシステムのアジアにおける拠点宇宙港として活用してもらおうというものです。まだ開発中なのに、こんな協定を結んで大丈夫かと心配はありましたが、先方は確信を持っているし、やらないと他の地域や国に持っていかれる心配もあるので、清水の舞台から飛び降りる覚悟で締結しました。
協定から1ヶ月後の初の空中発射実験では、ロケット切り離し後、そのロケットエンジンに異常が発生し実験は中止。当方としては「後はどうなる?」と気を揉みましたが、先方は「実験で沢山の貴重なデータが取れた」と言って確信に全く揺らぐところがありません。そして半年後の2021年1月に2回目の空中発射実験に成功、それもロケットに11基の小型人工衛星を搭載しての成功です。「失敗は成功の母」の信念をもって、失敗しても成功につながる調査、検査を盛り込み、データをとって、それを使って見事成し遂げたわけです。
最近「世界失敗製品図鑑」(荒木博行著)という面白い本を読みました。同書は有名な製品やサービスの開発・販売の失敗例を取り上げて、その原因を分析しています。
例えば有名な自動車メーカー、フォードの失敗例。1950年代、フォードは中流層を対象に魅力的革新的な車の開発を目指します。デザインにこだわり、内部も押しボタンを大胆に取り入れ、名前も前社長の名前をとって「エドセル」、満を持して販売開始したものの結果は大失敗。販売開始早々故障続きで、安全快適に走るという車の中核的価値を疎かにしたこと、顧客情報には徹底的に対応したつもりでも、成功を重ねた自負がやはり柔軟な対応を妨げたことなどが原因として挙げられています。
同書では、例えばビジネスは顧客第一、顧客の満足度が重要と言われながら、それが実現できなかった失敗例として、他にもいくつか挙げています。顧客に評価してもらえる新サービスの開発を目指してスタートしたものの、最後は自社のビジョン、都合にこだわって顧客の気持ちから離れてしまった例、伝統ある会社が入念に検討して決定した非の打ち所のない製品であっても、顧客と十分にコミュニケーションをとりながら開発したというプロセスをとらないと、顧客が納得してついてきてくれない例等々。
失敗の例を並べましたが、ここでも共通していることは、これらの企業は、失敗には原因があるとして、いろいろな観点からモニターし、データをとって、どこが悪かったのか明らかにしたうえで、直ぐに修正、やり直して再起しているところです。
大事なことはチャレンジすることで、失敗を恐れてリスクを伴うことは何もしないというのが最悪です。むしろ失敗から学んで次は成功に繋げていくことが肝要です。そう言えばアメリカでは会社の採用面接の時、「あなたは何回失敗しましたか、それでどんなことを学びましたか」と聞かれることが多いそうです。
年度の始め、新しい社員が入ってきたり、会社として新しいプロジェクトに取りかかる時だと思います。少々のことには揺らがない会社の基盤を整えて、若い社員には「失敗は成功の母、失敗してもいい。そこからいろいろ再起のためのデータを取って次の成功に向けて動き出すことが大事だ。」くらいのことを言ってやりたいものですね。
~県政だより新時代おおいたvol.142 2022年5月発行~