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年寄りの「かわいげ」
大分県知事 広瀬勝貞
何か行き違いがあって、夫婦して黙って食事をしていたら、休暇で帰省中の息子が「映画で、寅さんが年寄りはかわいげがなきゃいけないよと言ってたぞ」。その時は、2人とも「何を生意気な」と内心思いつつ、やはり何も言わずに食事を続けました。
その日の午後でしたが、頑固なパートナーが買い物から帰るなり息子に「言うとおりだわ。年寄りはかわいげだね」。話を聞いてみると、狭い道を歩いていたら、向こうから足の悪いお年寄りが道の真ん中を歩いており、後ろに車が2台繋がってついて来ていたようです。彼女がお年寄りを抱えるようにして「車が来てますから、ちょっと端に寄りましょう」と言うと、その方はにっこり笑って「道が狭いからね」と言って道端に避けて、車が行き過ぎるのを待ってくれたそうです。「うるさい」と怒られるかも知れないと覚悟していた彼女には本当に心和む「かわいげ」だったようです。
そういえば、アメリカで暮らしていたとき、散歩中に見知らぬ人とすれ違う際、相手がにこっと微笑みかけてきます。これは元来「私は無害ですよ」と言うアピールのようなもので、お互いの身の安全を図る意味もあったようですが、かわいげがあってよかったなと思い出します。
道をすれ違う二人の間でこれ程の効果があるくらいですから、職場などでは効果抜群だと思います。年長の上司は部下の足らざるを叱るのではなく、そこまでの成果を褒め、笑いながら「ぼくが君の頃にはこんなに出来なかったけどね」と言うくらいのかわいげがあると、もっと頑張ってくれそうな気がします。
やはり、明るく風通しのよい職場には、年長者のかわいげが必要な気がします。特に、会議の場などにおける意見交換や議論の際に、かわいげのあるやりとりを心掛けると、建設的な意見が出てくることが多いと思います。
有名な話ですが、国会の予算委員会で渦中の日米安保条約について「端的に言って、アメリカは日本にとって何ですか?」と問われた時の外相が「番犬です」。議場にどよめきが起こり、「日本にとって大事なアメリカを番犬呼ばわりしていいのですか?」との再質問で一気に緊張が走る中、外相は真顔で「番犬さま」。大爆笑の中でまともな議事に戻ったそうです。
年を重ねて、経験も積み、実績も豊富、若い人に負けてたまるかと思っている年長者は多いと思います。そんな人に、かわいげを求めるのも酷かもしれませんが、年を重ねたからこそ、かわいげを出す余裕があるとも言えます。知事室の若い人にこの原稿を見せたら、今回は好評でした。そのくらいかわいげなく大声を出して迷惑をかけているのかと大いに反省しました。
~県政だより新時代おおいたvol.123 2019年3月発行~